秋田流寒仕込みで醸す、雪に閉ざされた阿櫻酒造

阿櫻酒造前

 

雪深い秋田県横手市。そのシンボルである横手城は別名「阿櫻(あざくら)城」とも呼ばれる。その名にちなんだ阿櫻酒造は、明治19年創業の伝統ある酒蔵だ。

 

雪深い地で長期低温発酵させる「秋田流寒仕込み」

横手市は秋田県南東部の盆地にあり、夏は暑く、冬は雪の多い豪雪地帯だ。2021年2月には、積雪203㎝と過去最高積雪量を記録した。酒蔵は雪が多いことで、酒造りに最も適した室温が大きな変化なく一定に保たれる。阿櫻酒造ではこの寒さを活かした「秋田流寒仕込み」を採用し、寒冷の時期にじっくり長期低温発酵させる醸造方法で、爽やかな香りとまろやかな旨味を生み出している。

 

この酒蔵が醸す大吟醸酒「阿櫻」が2020年、ロンドンで開かれた「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」SAKE部門の大吟醸酒カテゴリーでゴールドメダルを受賞した。ワインの世界では最も影響力を持つといわれるコンクールで、2007年にSAKE部門が誕生。ここで認められると世界的な評価につながるため各地の酒蔵が競って出品しており、ゴールドメダルの価値は高い。

 

伝統を守りつつ、緻密でありながら遊び心のある日本酒

阿櫻酒造01

 

阿櫻で醸造の指揮をとるのは、黄綬褒章を授章している照井俊男杜氏だ。副杜氏として蔵を支える酒井太一さんは「緻密でありながら、遊び心を持ち合わせており、毎年多彩なアイデアが日本酒へと注ぎ込まれている」と仰ぎ見る。

 

日本酒の味の決め手となる酵母や麹などを変えるとなると、手探りの状態で作業をするため、現場では慎重にならざるを得ない。使ったことがないものはデータの蓄積もなく、使うことを躊躇するのだ。

 

しかし、照井杜氏は構うことなく仕込み前日にも「今年はこれ」とアイデアを出してくるという。酒井さんら醸造スタッフは毎年、その発想に驚きつつ、自分たちの引き出しも増やすことができている。

 

蔵では酒造りの象徴的な作業である櫂(かい)入れの廃止を決めた。同じ秋田で銘酒「雪の茅舎」を醸す齋彌酒造店や新政酒造などでも採用しているというが、この判断も照井杜氏だからこそだ。

 

櫂入れとは舟のオールのような棒状の器具を醸造タンクの上から入れてかき混ぜ、発酵を促進させる作業のこと。櫂の入れ方、混ぜ方にも蔵独自のさまざまなやり方があり、昔から各蔵の杜氏が知恵を絞ってきた。

 

しかし、酒井さんは「櫂入れはもろみの状態を触感で確認するために行うだけで、順調に発酵していれば循環作用が自然に起こるので櫂入れの必要はない。昨年、櫂入れを全くしないタンクを試験的に1本仕込んだところ、味わいに大きな変化はなかったうえ、窒素ガスが溜まっていることがわかったので、杜氏が廃止を決めた」と説明する。

 

窒素ガスはタンクの空気と入れ替わることで酸化を防ぎ、酒の劣化を防ぐことができる。また、櫂入れをしないことで時間の短縮につながり、タンク上での危険な作業もなくなるため、良いこと尽くめという結果となった。

 

蔵独自のデータを駆使して

阿櫻酒造02

 

もともと阿櫻酒造では、多くの酒蔵が使う開放タンクではなく、昔ながらの口の狭いタンクを使っているため、窒素ガスが抜けにくい。瓶詰めしても窒素ガスが瓶内を満たすため、味の変化を抑えることができる。

 

このため口を開けた直後と、ガスが抜けてグラスに注いだ時では風味が変わる面白さがある。ワインに例えるなら、ボトルからデキャンタに移すと酸化が進み、味がまろやかに変化するのと同じだ。

 

酒造りの重要な作業である麹造りは、やや大型の容器に米を入れる箱麹法ではなく、全ての作業を床の上で行う床麹法を採用している。麹造りの最も古い方法と推定されているが、箱麹法より作業がシンプルなのが特徴だ。

 

小型の容器に米を入れて作る蓋麹や箱麹よりも床麹の方が酸度が高くなるという蔵独自のデータもあり、後味のキレの良さは麹の作り方に由来している。

 

弱点を補うのは、伝統を継承する蔵人の情熱

原料にもこだわりがある。現在、阿櫻酒造では山田錦を使わず、秋田を代表する酒造好適米「秋田酒こまち」を中心に使っている。今後は米どころ秋田の地元米のみで醸していく方針だ。

 

また、水は奥羽山系の伏流水を使っているが、軟水のため日本酒造りに必要なミネラル分が少ない。口当たりはまろやかに仕上がる一方、目指す酒質に影響が出ることもあるという。その弱点を補完するため、ふんだんに水を使うことで発酵力を上げるなどの細やかな配慮が必要になる。

 

酒造りにおいて重要な洗米と浸漬にも心を配る。糠がついていると麹の繁殖が悪くなり、もろみに入れた時にエグ味に変わってしまうため、洗米処理は若干長めにとり、水切り時間も緻密に計りながら調整している。

 

酒造りに大切なのは杜氏を中心としたチームワーク

阿櫻酒造03

 

副杜氏を務める酒井太一さんは今年で入社16年目。別の業種に就職したものの、地元で仕事をしたいという思いから25歳で入社した。当初は瓶詰め工場の配属だったが、3年後に醸造に携わるようになった。

 

酒井さんは、日本酒造りの設計時に作るグラフとほぼ変わらない経過で酒が絞れた時が面白いという。逆に気温や水入れのタイミングなどの違いで、グラフに沿わないことも度々ある。醸造の繊細な一面が垣間見え、それもまた楽しんでいるそうだ。

 

蔵の酒造りのスタッフは照井杜氏を含めて9人。高齢化が進んでおり、酒井さんは若い人の力が必要だと感じており、若手が魅力を感じる蔵にすることが大事だと考えている。若い人にとっては酒蔵の仕事は魅力的な環境ではないので、この蔵に勤めてみたいと思ってもらえるような蔵づくりを目指したいという。

 

営業担当の深川快幸さんは「酒質は働き手の気分によって変わってくる」と話し、仕事をしていて楽しいと思えるような蔵にすることが大切なことだと考えている。「嫌々酒造りをしていれば、酒質にもその気が移る。蔵の全員でコミュニケーションを取りながら、我が家のような雰囲気で酒造りをしていきたい」と話す。

 

新しいアイデアと挑戦が、酒造業界のボトムアップに繋がる

秋田の酒造業界について、酒井さんは「時代の変化に合わせた造り方を選ぶのか、これまでの伝統的な造りを踏襲するのかの選択が迫られている」と見ている。阿櫻酒造は照井杜氏の造りを守り大事に育てながら、毎年新しい挑戦を続け、よりうまい酒を醸せる努力と研鑽を積んでいきたいと話す。

 

阿櫻酒造の今後について深川さんは「明確なブランディングを掲げ、SNSやメディアへの発信力を高めることで販売力にもつながってくる」と話す。秋田市内を中心とした5つの蔵元が互いに研鑽しつつ共同醸造プロジェクトなども手がける「NEXT5」などのユニットを目標に、「横手でも何か形にできれば」と考えている。

 

また、秋田県内で趣旨に賛同した蔵が参加し好評を博す「秋田旬吟醸」シリーズのような戦略は、この先も続けていきたいと語る。手がける酒のテイストとラベルのイメージに若干のズレを感じるという酒井さん。照井杜氏が毎年日本酒に注ぎ込む多彩なアイデアを、的確に表現できるビジュアルに落とし込んだ商品造りができないか模索しているそうだ。

 

さまざまなシーンに寄り添う万能さも魅力

阿櫻酒造05

 

阿櫻は醸造過程で発生する窒素ガスのおかげで瓶内での味の変化が少ないので、どんな飲み方でも味わえるのが特徴だ。燗酒にしても味が崩れることなく、熱燗から燗冷ましまで、ゆっくり飲んでも酒本来の味わいを楽しむことができる。

 

また、冷やで味わう酒や、フレッシュ感が楽しめる生酒など、多彩な銘柄を揃えているのも特徴。女性に人気の濁りやスパークリングなどもラインアップし、さまざまなシーンで味わえるのも魅力だ。

 

純米酒はキレの良さが感じられるものが多く、和食と合わせて楽しむのがいい。どっしりした味わいは、しっかりとした味わいの料理に合わせるのがお勧めだ。一方、吟醸特有の華やかな香りは刺身が合う。醤油より塩で味わえる素材を活かした料理との相性は抜群だ。

 

また、味わいにはコクがあるのでハーブなどが香る洋食に合わせるのも良い。パエリアやカルパッチョ、チキンの香草グリルなどと合わせると、食も酒もすすむことは間違いない。

 

会社名 阿櫻酒造 株式会社
代表者 信川 晃洋
住所 秋田県横手市大沢字西野67-2
電話 0182-32-0126
ホームページ http://www.azakura.co.jp/
銘柄 「阿櫻」

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