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指宿からの挑戦

明治8年(1875年)に創業した大山甚七商店は、「日本のハワイ」と呼ばれる指宿市宮ヶ浜で、一世紀半にわたり焼酎造りを守り続けています。

2023年に就任した6代目蔵元の大山陽平氏は、伝統的な芋焼酎の製造に加え、スピリッツ造りという新たな挑戦を始め、蔵の新時代を切り開いています。

蔵の立地は、国土交通省の水の郷百選に認定された唐船峡に近く、宮ヶ浜の豊かな地下水を仕込水として使用しています。この水は長年の焼酎造りを支える重要な要素となっており、その品質の高さは数々の銘酒を生み出してきました。

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蔵の裏には鹿児島湾が広がり、指宿枕崎線の列車が行き交う風光明媚な場所に位置しています。この景観は、訪れる人々の心を癒すだけでなく、製造に携わる従業員たちの誇りともなっています。

年間平均気温約19度という温暖な気候は、ソテツの自生地となり、幸せを呼ぶ熱帯蝶・ツマベニチョウが舞う特別な環境を作り出しています。

この気候は、芋の栽培にも適しており、原料となるさつまいもの品質向上にも貢献しています。まさに、自然と産業が見事に調和した土地といえるでしょう。

こだわりの製造工程

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製造現場では、長年の経験を持つ男性杜氏による丁寧な芋の仕分けから始まります。熟練の目で一つ一つの芋を見極め、最適な状態の原料のみを選別していく。この工程は機械化が難しく、人の経験と勘が重要な役割を果たしています。

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伝統的な甕仕込みとステンレスタンクを使い分けた製法が守られており、1次仕込みは甕仕込み、2次仕込みは主にステンレスタンクで行われます。

しかし、銘柄によっては2次仕込みも甕を使用するなど、それぞれの商品特性に応じた最適な製法を選択しています。この柔軟な製造方法により、各商品の個性を最大限に引き出すことに成功しています。

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麹造りでは2日おきに900キロの米をドラム式蒸し器で蒸し、最新のコンピューター管理による温度制御で、確実な品質管理を実現しています。

この工程では、伝統的な技術と現代の設備を融合させることで、効率的かつ安定した製造を可能にしています。また、1回の仕込みに2.5トンもの地元産芋を使用し、南薩の温暖で肥沃な大地の恵みを最大限に活かしています。

進化するスピリッツ蔵 新たな可能性の追求

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大山陽平氏の就任により、蔵は大きな転換期を迎えています。敷地内に連続蒸留器を新設し、地元のハーブや黒糖を活用したジンやラムの製造を開始。この挑戦は、従来の焼酎蔵の概念を大きく広げる革新的な取り組みとなっています。

蒸留したスピリッツは500リットルのドラム缶で段階的にアルコール度数を調整した後、焼酎と同じステンレスタンクで貯蔵されます。

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この過程で、商品の特性に応じて熟成期間や方法を細かく調整し、最適な味わいを追求しています。中には、本坊酒造のウイスキー樽を使用した熟成など、地域間連携による新商品開発も進めており、鹿児島のスピリッツ文化に新たな可能性を見出しています。

この試みは、従来の焼酎蔵の枠を超えた「スピリッツ蔵」としての新たなアイデンティティの確立を目指すものです。

炭酸割りやカクテルベースなど、若い世代の好みに合わせた商品開発にも注力し、焼酎文化の裾野を広げる取り組みを積極的に行っています。

伝統と観光の融合による新しい蔵の形

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貯蔵庫の改築に際しても、以前から観光客向けの展示室を設置。大山甚七商店の歴史はもちろん、鹿児島の焼酎文化の歴史を学べる貴重な資料を展示し、試飲スペースも完備しています。

この展示室は、単なる観光施設ではなく、焼酎文化の継承と発信の場としても重要な役割を果たしています。

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蔵案内を担当していただいた芝氏から勧められた製造資料は、鹿児島の焼酎製造の歴史を物語る貴重なアーカイブとなっています。これらの資料は、単に過去の記録というだけでなく、未来の商品開発にも示唆を与える貴重な財産となっています。

レギュラー商品「薩摩の誉」の品質向上にも継続的に取り組み、伝統的な芋焼酎ファンの期待にも応えています。お湯割りで楽しむ本格的な芋焼酎としての特性を大切にしながら、現代の嗜好に合わせた味わいの追求も怠りません。

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社長を筆頭に若いスタッフが多く、活気と笑顔にあふれた職場環境も、この蔵の特徴です。新しいアイデアが次々と生まれ、それを実現できる柔軟な組織体制が、革新的な商品開発を支えています。

温泉地ならではの観光資源と焼酎文化を結びつけ、伝統と革新のバランスを取りながら、新しい時代の酒蔵として着実に歩みを進める大山甚七商店。

150年にもなる歴史を礎に、次の時代を見据えた挑戦は、まだ始まったばかりです。この蔵の挑戦は、日本の伝統的な酒造りの新しい可能性を示す、重要なモデルケースとなっているのです。

大山甚七商店の会社概要

会社名有限会社大山甚七商店
代表者大山陽平
代表銘柄薩摩の誉、Jin7、コーラ酎
創業明治8年(1875年)
住所鹿児島県指宿市西方4657
電話0993-25-2410
ウエブサイトhttp://www.jin7.co.jp/

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