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歴史と伝統:134年続く霧島の名門蔵

明治21年(1888年)、初代中村金助が鹿児島県霧島市国分の地に中村酒造場を創業して以来、134年の長きにわたり焼酎造りを守り続けています。国分平野と呼ばれる豊かな田園地帯に位置し、代々の当主が技術と伝統を継承してきました。

現在の社長である中村敏治氏は、独自の「なかむら」ブランドを確立し、焼酎ブームの波に翻弄されることなく、「蔵を大きくしない」という信念を貫いてきました。この決断は、大量生産に走らず品質を重視した持続可能な経営の象徴として、今日の中村酒造場の礎となっています。

かつては住み込み杜氏の上堂園孝蔵氏が製造を仕切り、中村家と寝食を共にしながら酒造りに邁進していました。その技術と精神は、現在の6代目である慎弥氏に脈々と受け継がれています。

慎弥氏は東京農大で醸造を学んだ後、山形県の東北銘醸(初孫)で2年間の修業を重ね、特に黄麹を使用する日本酒造りの繊細な技術を習得。その後、大阪の卸問屋で2年間の流通業経験を積み、商都大阪での厳しい商習慣も学びました。この多角的な経験が、現在の中村酒造場の革新的な焼酎造りに活かされています。

自然との共生:石蔵が育む伝統の味

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中村酒造場の最大の特徴は、自然との調和を重視した製造方法です。その象徴となるのが石造りの麹室で、現代的な設備に頼らず、自然換気と職人の五感のみで温度・湿度を管理しています。

ちなみに現在の蔵は、ページのトップ画像にあるレンガ造りの建物の横に移設されたものです。この石蔵も移築したものです。

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扉や天窓を巧みに操作し、自然の力を最大限に活用した環境作りを行っています。この伝統的な手法は、時として職人の泊まり込み作業を必要としますが、それこそが本物の味を作り出す源となっています。

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霧島山系の麓に位置する立地を活かし、200メートルの深さから湧き出る豊富な地下水を使用しています。この水は焼酎造りに理想的な硬度とミネラルバランスを持ち、中村酒造場の焼酎に清らかな味わいを与えています。

また、蔵に自然に棲みつく麹菌や酵母を大切に育て、これらの微生物が醸し出す独特の風味を焼酎に活かしています。不思議なことに、蔵内には黒麹、白麹、黄麹が自然に発生し、これらを巧みに活用した独自の「アメージング仕込」という製法も開発しています。

技術革新:伝統と進化の融合

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麹造りへのこだわりは特筆すべきもので、通常の焼酎蔵では見られない日本酒式の麹蓋を採用する珍しい製法を実践しています。この技法を採用している焼酎蔵は全国でもわずか3蔵程度と言われており、中村酒造場の独自性を象徴する技術となっています。

また、独自開発の洗濯ネットを用いた麹の培養方法など、伝統的な技術を基礎としながらも、常に新しい製法の開発に挑戦しています。

近年問題となっている芋の基腐病対策として、従来のコガネセンガンに加え、病害に強い「みちしずく」という新品種を積極的に導入。また、収穫時期を早めるなど、柔軟な製造スケジュールの調整で原料の安定確保に努めています。

蒸留工程においても、配管の改良や蒸気の当て方の工夫など、絶え間ない改善を重ねることで、より優れた酒質の実現を目指しています。さらに、「むらさきいも」などの新しい原料を用いた商品開発にも積極的に取り組んでいます。

匠の技:少量生産が生み出す至高の一滴

現在5名の蔵人と1名の事務職員という小規模な体制で、丁寧な焼酎造りを行っています。特徴的なのは、他の蔵での経験を持つ蔵人が2名在籍していることで、彼らの多様な経験が新しい視点として焼酎造りに活かされています。

今回の蔵も訪問では、その一人である小池田氏に蔵見学を案内いただきました。小池田氏は、私と同じ大阪出身ということもあり親しく蔵見学をさせていただきました。

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製造工程では、1次仕込みで300キロの麹を使用し、伝統的な甕仕込で5~7日間かけて丁寧に仕込みます。2次仕込みではさつまいも1500キロを使用し、ステンレスタンクで9~10日間という十分な時間をかけて発酵させます。

製造順序は「なかむら」からスタートし、玉露の白麹、最後に玉露の黒麹で完了となります。

蔵内に点在する様々な容量の貯蔵タンクも、少量生産にこだわる中村酒造場ならではの特徴で、それぞれの仕込みに最適な環境を提供しています。

また、近年は蒸留器への研究も進め、配管の増設や蒸気の当て方の工夫など、さらなる品質向上に向けた取り組みを続けています。

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このように、自然と技術と情熱が織りなす中村酒造場の焼酎は、134年の歴史が証明する確かな品質と、次の時代を見据えた革新性を兼ね備えています。

伝統を守りながらも進化を続ける姿勢は、日本の焼酎文化の未来を担う重要な存在として、ますます期待が高まっています。

中村酒造場の会社概要

会社名有限会社中村酒造場
代表者中村敏治
代表銘柄玉露、なかむら
創業明治21年(1888年)
住所鹿児島県霧島市国分湊915
電話0995-45-0214
ウエブサイトhttps://nakamurashuzoujo.com/

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