
幻の銘酒「伊佐美」を守り続けて
明治37年(1904年)の創業以来、株式会社甲斐商店は「伊佐美」という単一銘柄に特化し、一世紀以上にわたって伝統の味を守り続けています。
所在地である鹿児島県伊佐市は、永禄2年(1559年)の木札に焼酎の文字が記された郡山八幡神社があることから、「焼酎発祥の地」として知られています。
この歴史的な木札は国の重要文化財に指定され、日本の焼酎文化の源流を今に伝える貴重な証となっています。
地元では「鹿児島の北海道」と呼ばれるほどの寒暖差のある気候が、独特の味わいを育む自然環境を形成しています。
甲斐商店の奥様である弥生さんの言葉を借りれば、鹿児島市内から北上し、鹿児島空港付近を過ぎたあたりから空気が一変するといいます。
この独特の気候は、原料となる芋の生育や、発酵、熟成の過程にも影響を与え、「伊佐美」ならではの味わいを生み出す重要な要素となっています。
プレミアム焼酎の先駆者
「伊佐美」は、3M(森伊蔵、魔王、村尾)と呼ばれる銘柄群が注目される以前から、プレミアム焼酎として確固たる地位を築いていました。
1980年代、当時の中曽根康弘首相が鹿児島訪問の際に「伊佐美」と出会い、その味わいに魅了されたことをきっかけに、政界を中心に「幻の焼酎」としての評価が確立されていきました。
黒麹のみを使用する独自の製法は、濃厚な味わいとキレの良い飲み口という、相反する特徴を見事に両立させています。
ロックでも十分に楽しめる味わいですが、特にお湯割りにすることで、芋の香り高く、まろやかな味わいを存分に楽しむことができます。この飲み方の提案も、「伊佐美」の魅力を広げる要因となっています。
伝統を守る揺るぎない製法へのこだわり
創業以来、黒麹一筋の製法を貫き、手作業による丁寧な仕込みにこだわり続けています。この製法は、大量生産を可能にする白麹への転換が主流となった時代にも、あえて守り続けられてきました。
黒麹特有の深い味わいと芳醇な香りは、「伊佐美」の個性として、多くのファンを魅了し続けています。
商品展開も1800mlと720mlの2種類に限定し、特に720mlボトルは百貨店での取り扱いを中心とするなど、品質管理と流通にも細心の注意を払っています。
この徹底したこだわりは、プレミアム焼酎としてのブランド価値を高める重要な要素となっています。
平成9年には区画整理に伴い、従来の場所から5キロほど離れた山間部に新蔵を建設。現代的な設備を導入しながらも、伝統的な製法は変えることなく継承しています。
新しい環境でも変わらぬ味を守り続けるという姿勢は、甲斐商店の品質に対する揺るぎない信念を表しています。
未来への挑戦は品質を守る取り組み
近年、芋の基腐病の影響でコガネセンガンの確保が困難になる中、甲斐社長は様々な品種の検討を重ねました。新品種の導入も検討されましたが、徹底的な試験醸造と味わいの検証の結果、「伊佐美」の味を守るためには、やはりコガネセンガンが不可欠という結論に達しました。
この決断を受けて、地域の生産者との協力体制を強化し、原料の安定確保に向けた取り組みを進めています。これは単なる原料調達の問題ではなく、地域農業の維持発展にも寄与する重要な取り組みとなっています。
当店は大阪の特約取扱店として、安全な流通体制を構築し、鮮度の高い商品を提供することで、遠隔地での品質維持にも成功しています。九州からの輸送距離による若干の価格上昇はありますが、その分、新鮮な商品と確実な数量確保、そして何より生きた情報提供という付加価値を実現しています。
このように、甲斐商店は単一銘柄にこだわり、その品質を守り抜くことで、日本を代表する本格焼酎としての地位を確立し続けています。伝統を守りながらも、時代の変化に柔軟に対応する姿勢は、焼酎造りの理想的なあり方を示しているといえるでしょう。
120年の歴史を持つ甲斐商店は、これからも「伊佐美」という唯一無二の銘柄を通じて、本物の焼酎の魅力を伝え続けていくことでしょう。その姿勢は、大量生産・大量消費の時代にあって、本物の価値を守り続けることの重要性を私たちに教えてくれています。

甲斐商店の会社概要
会社名 | 株式会社 甲斐商店 |
代表者 | 甲斐 弘一 |
代表銘柄 | 伊佐美 |
創業 | 明治37年(1904年) |
住所 | 鹿児島県伊佐市大口上町7番地1 |
電話 | 0995-22-0548 |
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