最盛期の西灘の面影を残し、昔ながらに酒を醸す「茨木酒造」

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兵庫県明石市の西側は、江戸時代から酒造りが盛んで「西灘」と呼ばれてきた。日本一の酒どころ、兵庫県神戸市の灘五郷に対する「西」だ。兵庫県西部に広がる播磨平野でできる酒米、六甲山系のミネラル感のある良質な水、冬に吹く厳しい寒風。これらが相まって酒造りに適した風土を形作ってきた。

 

明治時代の最盛期には68軒の蔵があったが、消費量の減少などから現在では6軒に減っている。その1軒である「茨木酒造」も江戸時代から続き、2021年で創業173年目となる由緒ある蔵だ。

 

創業したのは茨木清兵衛で、この蔵では代々当主が清兵衛の名を受け継いでいる。杜氏である茨木幹人さんの父が8代目で、いずれ幹人さんが9代目を継ぐことになる。幹人さんは歴史ある蔵に生まれ、「蔵を継ぐことが使命」と思って育ってきた。

 

東京農業大学の醸造学科を卒業し、蔵に戻ったのが19年前。蔵で働いていた丹波杜氏の下で2年間修行した後、3年目から杜氏として酒造りを切り盛りしてきた。若い世代が酒造りで食べていけるようにと蔵の若返りを図り、元システムエンジニアの同級生である蔵人と2人体制で酒造りに取り組んでいる。

 

友と酒を酌み交わす歓談の場にある酒「来楽」

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茨木酒造は年間生産量が200石(一升瓶で2万本)の小さな蔵だ。洗米から麹造り、発酵管理はもちろん、瓶詰めからラベル貼りまで、全てを幹人さんと蔵人の2人で行う一元管理体制を敷いている。

 

創業当時は初代清兵衛の「清」に、高貴なものとされた「玉」を合わせた「清玉」と言うブランドで出荷していたが、幹人さんの祖父である7代目が戦後、「新たな銘柄で再出発を」と名付けたのが、茨木酒造の代表銘柄「来楽」だ。

 

「来楽」は、孔子の論語にある「朋(とも)あり遠方より来たる、また楽しからずや」の一節に由来している。人生最高の楽しみである友と酒を酌み交わす歓談の場にある酒であるようにとの願いからつけられたそうだ。また、「来楽」は左右対称で、「裏表がない」縁起の良い名前でもある。

 

イメージを固め、紐解き醸す、茨木酒造の日本酒

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西灘に残る蔵は横のつながりが強く、技術交流なども盛んだ。技術革新が進み、美味しい酒が出回る中、もっと美味しい酒を提供したいという共通の思いで、醸造や経営に関する勉強会が活発に開かれている。先陣を切って輸出を始めた蔵の担当者からは、書類の書き方や担当者とのやり取りの方法など、包み隠さずアドバイスしてくれるような環境があるという。

 

幹人さんは「日本酒造りは面白いことばかり」と話す。酒造りはまずイメージを固め、どう具現化すればイメージ通りの味に醸せるかを紐解いていく。それが面白いし、日本酒を手に取るお客さんとそのイメージを共有し、また手にとってもらえることは生産者として最高の喜びだという。

 

兵庫県といえば山田錦の生まれた地であり、生産量も最も多い。茨木酒造で使う米は、その山田錦と五百万石がメインだ。こだわりはその米を作る田に張る水も日本酒を醸すのと同じ六甲山系の水を使っていることだ。

 

酒造りの工程は機械化できるところが多いが、手作業にこだわっている。丁寧に米を洗い、麹を作る。そして絞った酒の瓶詰めに至るまで、日本酒造りは製造工程が多い。それゆえに一つの工程に手を入れれば美味しくなると言う単純なことではない。

 

酒質の味をあげるには、全ての工程のボトムを上げることが不可欠なのだ。一連の作業を手で行い目を配ることで、製品に対して責任を持って造り上げることができる。また手作業がゆえ毎年味は微妙に変化していく。幹人さんは「(お客さんに)毎年の変化を楽しんでもらいたい」と思っている。

 

さらに「絞りに使うポンプやホース、ノズルなど、日本酒が触れる部分はとにかく清潔に保つことも重要」と話す。見えないところに気を遣うことは、日本酒造りの大切なカギでもあるのだ。

 

一方で、省力化できるところはさまざまな工夫を凝らしてきた。例えば、蒸した米にホースで風を送って冷ましていたが、ホースを洗うのが大変なので思い切ってやめたり、米を運ぶのにフォークリフトを導入したり。これは同級生の蔵人が入社するまでの2、3年は1人で酒造りをしてきたため、いかに合理的にやるかを追求して結果でもある。

 

明石の素材に寄り添い、自分らしい酒造り

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幹人さんは「酒質を変えることはたやすい。例えば、高価な浄水器を入れることで酒質はガラリと変わる」と言う。

 

しかし、それが自分の目指す酒質なのかと自問すると、答えはノーだ。今はきれいな仕上がりの日本酒が主流で評価されやすいが、それは代々茨木酒造で醸してきた日本酒の味ではない。機械や流行に頼ることなく、自分たちの個性を活かした酒造りをすることが茨木酒造のこだわりだ。

 

「高知に行って鰹など赤身の魚を盛り合わせた皿鉢料理を食べた時、辛口の酒が抜群寄り添っていたことがとても印象に残っている」と幹人さんは話す。酒造りのイメージとして大事にしていることは、料理とのペアリングだ。明石は魚の町であり、この地に根ざした酒造りを目指している。

 

以前、市内の和食店主に「明石の和食店で出す鯛や穴子などの白身に合わせた日本酒は作れないか」と聞かれ、明石で獲れる魚介に合わせた日本酒づくりに着手した。「天ぷらに合わせるなら、もう少し酸のある方がいい」「煮付けなら甘味が感じられコクのある風味が良い」など、料理をイメージして日本酒の骨格を決めていった。

 

魚介は多彩な調理法があるので、造りなら「火入れの純米吟醸」、天ぷらなら「北錦の純米酒」など、料理に合わせた日本酒のバリエーションが揃った。また店によっても味が微妙に変わるため、それに合わせられる多彩なラインアップが生まれた。

 

現在では、「来楽 純米吟醸」を始めとする「日本酒 定番」シリーズや、精米歩合によってさまざまな香りが楽しめる「山田錦」シリーズ、上品で華やかな香りの「日本酒 極上」シリーズ、「生原酒」などがラインアップされている。

 

また、幹人さんは、花の酵母を醸造に活かす「花酵母研究会」に所属しており、成果は日本酒「花酵母」シリーズとして実を結んでいる。アベリアの花酵母を使った「アベリア 純米生原酒」は、洋梨やメロンのような華やかな香りが特徴で、幅もボリュームも広がり、余韻の長いフルボリュームタイプだ。トマト料理全般に絶妙に寄り添い、ハンバーグなどとの相性も良いので、現代の食卓にも合わせやすい日本酒だという。

 

食卓を豊かにし、疲れを癒す救世主

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茨木酒造の日本酒は、塩味のある料理との相性がよく、塩味のあるチーズや家庭料理に合わせて味わうのもお勧めだという。日本酒はとてもリーズナブルな価格でありながら、多彩な料理に合うバラエティ豊かなラインアップがあり、日々の食卓に一華添えることができるのも魅力だ。

 

幹人さんは「日々の一杯がその日の疲れを癒やし、食卓を豊かにしてくれる、救世主のような存在の日本酒造りを続けていきたい」と話している。

 

会社名 茨木酒造合名会社
代表者 茨木 清兵衛
住所 兵庫県明石市魚住町西岡1377
電話 078-946-0061
ホームページ https://rairaku.jp/
銘柄 「来楽」

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